しかし、多くの事例を比較した結果、総合的な評価として『食道発声法』が最も優れた方法であると言うことが出来ます。
これは、ほとんど全ての喉摘者にとって、適切な練習を行うことで容易に習得できる最良の発声法なのです。
ゲップが出たことのある人なら、ちょっとしたコツを掴むことで、誰でも容易に『食道発声』による第二の声が取り戻せます。
◆手術前後の咽喉構造比較

★手術を受ける前は、口や鼻から肺に吸い込んだ空気を吐き出しながら喉頭の中間にある声帯を振動させて音に出していました(右の図)。 そしてその音を原音として唇、歯、舌、軟口蓋、喉、鼻腔などを調音器官として使い、その組合せや形状を微妙に調節しながら母音や子音を発声し、さらに音の高低や強弱を加えて言葉にしていました。
★声帯を失った喉摘者の『食道発声』の場合は、肺呼吸の空気とは違い、別途、食道内に空気を取り込み、それを逆流させて食道入口部粘膜のヒダを新声門とし、声帯の代わりに振動させて発声します(左の図)。 この原音と呼ばれる声さえ出せたならば、手術前と同じように調音器管を使って言葉にすることが出来るのです。
これは、手術前には全く経験していないことなので、一見、難しそうに思えるでしょうが、実はちょっとしたコツさえつかめば誰にでも簡単に出来ることなのです。
ただし、このやり方は頭で考えてもうまく行きません。自転車に乗れるようになった時のハンドル操作のように、また、水泳練習で身体の浮かせ方を覚えた時のように、理屈ではなく反復練習によって身体で覚えることが肝要です。
食道発声で、より自然でなめらかな声を出すには、第二の『吸引法』が優れた理想的な方法です。従って『吸引法』は、上達の過程において身につける必要がありますが、初心者にとっては、まず『注入法』からとりかかるのが容易であり、『食道発声』 獲得の近道と言えます。
ところが、喉摘者は「食道発声」のために空気を食道に入れようと言うのです。中には、最初からうまく出来る人がいますが、元来、自然の条理に反したことですから、最初は誰でもなかなかうまく出来ないのが普通です。
喉と肺がつながっていない喉摘者の場合、口に含んだ空気を一気に飲み込めば、空気は食道に押し込まれる以外ない筈です。
ところが、多くの場合、健常時代の習慣が拒否反応として働き、食道へ入れようとする空気が鼻腔へ逃げてしまい、食道入口部をゆるめて空気を食道へ取り込むことが、なかなか出来ないのです。
この「お茶のみ法」で「食道発声」の練習を始めた人たちのほとんどが、短時間または短期間で最初の原音を出すことに成功しています。
原音が出るようにさえなれば、その後の練習次第でどんどん上達します。「食道発声」で第二の声を身につけ、新たな人生を切り開いて下さい。
食道再建者は、再建された食道の入口部が狭くなっていないために、喉頭摘出のみの人と比べて空気の取り込みが容易に出来ると言う利点があります。しかし、その反面、入口部が広いために、振動部となる新声門の確保が難しく、原音が簡単には出にくいと言う問題があります。
食道再建者の原音発声にも「お茶のみ法」が、単純な喉摘者と同じように有効な場合もありますが、手術の内容によってはうまく行かないこともあり、このような場合には別の方法を試みる必要があります。
一般に食道再建者の場合には、前述した「吸引法」による空気の取り込みが最初の段階から簡単に出来てしまう人が多いようです。つまり、腹式呼吸で気管孔から大きく空気を吸うと、胸郭の広がりと連動して食道へも自然に空気が吸引されるからです。
ただし、食道に空気は入ったけれども新声門の振動が得にくく、原音がうまく出せないと言った事態が発生します。この場合、再建した食道の入口部を狭めて、振動部を確保する必要があります。気管孔の少し上の前頸部を指で押さえ、原音のための新声門の形成に適した位置を、自分なりに探し出さねばなりません。
食道内への空気の吸引は出来ているのに原音がうまく出ない食道再建者は、「お茶のみ法」だけでなく、頸部をいろいろと押さえながらお腹に力を入れて食道内の空気を逆流させ、原音を出すための押さえ具合や適当な部位を見つけ出しましょう。